KYOTO * 通訳

an interpreter in Kyoto:京都にて、駆け出し通訳者の日々。

通訳者の記憶力:リテンションについて②

通訳者にとっての「記憶」とは単なる暗記ではなく、「理解」であると前回の記事で書きました。今日はその続きです。

 

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聞いている時にはわかったような気がするが、いざ訳出しようとすると思い出せないということ、私も経験ありますが、これは中途半端な理解で、本当には納得していないということです。

 

では聞いた内容をきちんとした理解で、自分の中でストンと納得できるようにするにはどうすれば良いのか。

自明のようですが答えは、(基本的な英語の聴き取りはできることを前提として)

 

  ①必要な語彙力背景知識(一般常識と専門的知識)を持っていること。

 

なわけです。ここに、

 

  訳すこと、他者に伝えることを前提として聞く通訳者ならではの集中力、分析力、推測力も加わるでしょう。

 

つまり、技量全体の強化をすればリテンションも良くなっていくということです。

通訳者にとってのリテンション力とは、それ単体でぐんと伸びるというよりも、通訳者の力が総合的に上がることで、底上げされていくものだと言えるのです。(これは英語のリスニング力一般をいかに高めるかということにも繋がりますね。)

 

このような理由で、私自身の(リテンション力強化を目的とした)現在の通訳トレーニングメニューには、聞いたものを一字一句覚えて繰り返す「リプロダクション」は入れていません。しかし狭義の意味での記憶力(機械的な暗記)の鍛錬が通訳にとってまったく無駄かというとそうでもないと思います。日本語と英語のように文構造が全く異なる二つの言語間で通訳をする際は、原発言者がセンテンスを言い終わるまで主語や動詞がわからないことはしばしばあり、この点での短期記憶保持力は求められます。また暗記・暗唱は、自分自身の表現のバリエーションをランダムに増強したい場合にも有益ですし、通訳の現場では専門用語が追いつかず、表面的に訳さざるを得ない場面も(不本意ながら)ありますから、その際にも「音として」聞いた内容を覚えておく技術は役に立ちます。

 

ただ、限られた時間の中で、私自身は今のところ、リテンション力強化のためには「要約」や「記憶訳出」を行いながら、慣用表現などを覚えるという項目は語彙強化のメニュー(クイックレスポンス)に組み入れていこうと思っている次第です。