KYOTO * 通訳

an interpreter in Kyoto:京都にて、駆け出し通訳者の日々。

長井鞠子さんの語った「通訳者の資質」

通訳に関心がある方ならすでにご存知の方も多いと思いますが、著名な通訳者の長井鞠子氏が講演(2015年2月)の中で通訳者の資質について語っておれます。

 

講演の冒頭では、そもそも通訳者になりたいとは全く思っていなかった長井さんが、1964年の東京オリンピックでのアルバイトをきっかけとして通訳の世界に足を踏み入れた経緯を話していらっしゃいます。そのアルバイトではなんと、「仕事の内容は簡単、ちょっとかっこいい、面白い、そしてペイはいい。こんなにチョロい仕事はないだろう」と思ったそうです。まぁ、その時の仕事内容は通訳とはいえ「選手紹介と記録の発表を英語で言うだけ」だったそうなので、ちょっと英語のできる大学生ならそりゃそう思うだろうなぁという感じですが、なんともうらやましい時代です(笑)。

 

さて、長井さんの語る「通訳者の資質」は以下の8つ。

  • 語る、表現することにパッションを持っている。
  • 勉強、準備をいとわない。
  • 性格的におせっかい、世話焼きである。
  • 一を聞いて十を知る、要領の良さ。(⇨限られた時間の中でさっと資料を見て、これがミソだなと判別する能力。)
  • 何ごとにも好奇心を持つ人間である。
  • 人間に対する興味。(⇨言葉は人間の営みの表れ。「この人はなぜこんなことを言うんだろう」という理解に繋がる。)
  • 落ち込まないこと、引きずらないこと、楽観的であること。(⇨大変なことをしでかしても、3日以上は落ち込まない。)
  • 若干の自己顕示欲。(⇨千人の聴衆の前で堂々たる通訳をしなければならないこともある。自分の声を相手にしっかり届けようという姿勢。)

 

どうでしょうか。

 

通訳を志す人たちへの助言としては、モチベーションをどう保つか、壁にぶち当たったらどうするのかなどの他に、

 

  • わかりやすい、聞いている人の心にストンと落ちるような通訳を心がける。
  • 通訳は森羅万象が対象ゆえ、とにかく本を読む。読書によって語彙力も表現力もつける。
  • そして健康面。仕事とは別の世界をもってストレスを抱えない。
  • 通訳者は通訳をする時は虚心坦懐、まっさらな状態で。その人になりきる。

 

といったことを自分の経験に基づいて助言しておられます。実際に長年、第一線で通訳の現場を経験してきた方ならではの(生の)説得力があって面白いです。語り口もさすがの「早口」で面白い。

そして通訳を志すことの楽しみ、醍醐味は、

 

人と人とを繋ぎながら、時代の波頭に立ってサーフィンすることができる

 

ことだと表現しておられます。

人と人を繋ぎながら時代の波頭に立つ。魅力的なフレージングです。

 

70代にしてなお第一線でご活躍の長井鞠子氏。実力と健康さえあれば、男女問わず長く現役で活躍できる(長年の経験がむしろ力となる)通訳の仕事の魅力をご自身の存在をもって表現されています。

 

 

サイマル・アカデミー「通訳者・翻訳者への道」第1部 - YouTube

 

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