KYOTO * 通訳

an interpreter in Kyoto:京都にて、駆け出し通訳者の日々。

通訳者のリテンション強化エクササイズ:記憶訳出

「通訳は逐次に始まり逐次に終わる」と言われるほど、逐次通訳は「通訳の基本」(簡単という意味ではなく)なのですが、これは逐次通訳においてなされる作業の流れの中に、「正確に理解して、それを他の言語で伝える」という通訳技術のエッセンスがよりはっきりと意識されるためです。逐次通訳の作業の流れとは具体的には、

 

 理解 ⇨ リテンション(記憶とノートテイキング)⇨ 再表現(訳出)

 

のことですが、小松達也氏はこのことを以下のように語っています。

 

逐次通訳では話を聞いて理解する過程、記憶しノートをとる過程、表現する過程がおたがいに関連しながらも独立しており、それぞれを別に系統だって学ぶことができる。...通訳者を志す人はまずは逐次通訳の技術をしっかり身につけねばならない。逐次通訳がよくできるようになれば、同時通訳の技術はその延長として習得することができる。(『通訳の技術』)

 

よって、遠回りのように感じても、通訳訓練の初期の段階(あるいは通訳者としての歩みの初期)では、訳出の練習以上に、理解とリテンションの訓練に力を入れるべきだと思っています。私自身は、音声の訳出練習に加え、リテンション強化のために今学期の学習目標とメニューに含めた記憶訳出を以下のようにやっています。

 

  1. 英文(もしくは日本文)を1パラグラフずつ音読し、その内容を記憶し、原稿を見ずに記憶を基に訳出する。
  2. どれくらい正確に訳せているか(落とした情報はないか等)を原稿を見てチェックする。

 

これを繰り返しながら、記憶の精度(=訳の正確さ)を高める努力をします。最初、1パラグラフではきつい場合は、まずは1文、2文、、と増やしていけばよいと思います。

 

これを行う上でやはりしっかりと意識したいと思っているのは、「語句」や「構文」にとらわれすぎずにあくまでも話し手が伝えようとする「意味」ををつかむ、つまり「メッセージの理解(comprehension)」に意識の重点を置くことです。これは通訳者の記憶力:リテンションについて① で書いたとおりですが、この意味では記憶訳出に入る前段階での「要約」も非常に有効な訓練法と言えます。知人に聞いた話によると、アメリカのモントレー国際大学院通訳科では、入門の生徒には最初の数ヶ月間は訳出をさせず、ひたすらに長文の「要約」を課すそうですが、非常に理にかなった方法だと思います。ここから話の幹と枝葉とを聞き分けていく分析力も養われるでしょうし、それが効果的なノートテイキング(note-taking)にも繋がっていくと考えられます。

 

ちなみに記憶訳出の発展編としては、トレーニングの際、ストップウォッチなどで音読時間と訳出時間をはかって比較すれば、スピードを意識したトレーニングにもなります。

訳出にかかる時間を意識したトレーニングというのもけっこう大事なのではと感じています。というのは、通訳の現場では訳出までに時間がかかりすぎれば(=通訳者が訳し始めるまでの沈黙の時間が長過ぎると)聞いている側の不安感(不信感)に繋がりますし、例えば会議で通訳がもたもたと時間を使ってしまえば、会議全体が間延びしてしまうことにも繋がるからです。

 

語彙や数字、慣用表現のクイックレスポンス、サイトトランスレーション、シャドーイング、、、通訳訓練としてすべきことはたくさんあって考えすぎると圧倒されますが、できる範囲で一つずつ実行していくしかありません。がんばりましょう。(←と、自分に言い聞かせてます。^^)