KYOTO * 通訳

an interpreter in Kyoto:京都にて、駆け出し通訳者の日々。

いつもエールをくれる本『通訳席から世界が見える』

新崎隆子著『通訳席から世界が見える』

 

   

私にとっては、通訳学校に通う前から今に至るまで、時折 ー特に元気のない時にー 開きたくなる本であり、読む度に何かしら心に響き、必ず励ましを与えてくれるのがこの本です。

 

中学校の教師を経て、一人息子さんを亡くされてから、 通訳者を目指し、会議通訳者、放送通訳者として活躍されるまでが書かれているのですが、絶望の中での苦しみや葛藤、そして通訳を通して自分らしさと生きる喜びを取り戻して行く過程が克明に描かれており、思わず涙がこぼれます。

 

この本は通訳者を目指そうという人だけなく、通訳に関係のない一般の人が、通訳とはどのような仕事なのか、どのような訓練が必要なのか、どういった苦労や喜びがあるのかといった職業としての通訳をわかりやすく理解できるように書かれています。

 

そして、新崎さんの平易で愛情溢れる筆致は、人生に迷ったり恐れたりしている若い人に向かって書かれているように思います。前書きにこのように書かれている通りに。

 

プロの通訳になって18年。時代も学校も変わって、もう聞いてくれるような生徒たちはどこにもいないかもしれないのに、わたしは、いつかホームルームで話をするのを楽しみに、長い旅を続けている先生のような気がする。もし帰ることのできる教室があれば、人生捨てたものではないという話がいっぱいできるだろう。これはわたしの架空のホームルームだ。

 

実は新崎さんのことを、大学院時代に一度だけお見かけしたことがあります。

通訳関連の学会で博士論文の発表をしていらっしゃいました。

物腰柔らかで知的な雰囲気の女性で、柔らかく軽快に語られる姿が印象的でした。

 

苦しい思いをし、それを乗り越えた人だけが語ることのできる「言葉」があるのだなと思います。